語彙を増やすために日本語学習者が使う表現「これは何ですか?」「これは日本語で何て言うんですか?」など4つの表現の使い分け

山田です。
日本語学習者が主体的に
日本人との会話のなかで語彙を増やしていくために、
初級からでも使える便利な表現あります。
まず「これは何ですか?」を挙げる人が多いかもしれませんが、
「これは何て言うんですか?」との違いは何でしょうか。
関連する表現も含め、整理してみました。

表の上段①は、見たもの・ことがらについて聞くとき、
下段②は、聞いたことや、
頭の中にあることについて聞くときの表現です。

表の左側Aは、初めて見た・知ったもので、
右側Bは、話し手が母語や母文化では「知っている」ことで、
日本語で知らないだけのことです。

これらの組み合わせで4つの表現があり、
それぞれに使い分けがあります。ひとつひとつ見ていきましょう。

▼ A①「これは何ですか?」

学習の最初に定型表現として教えることもあるかと思いますが、
実際は限られた状況でしか使えないことに注意が必要です。

例えば、日本語を勉強している大人の外国人が、
えんぴつを指差してこの表現を使って聞くのは、どうでしょうか。

大人にもなって「えんぴつが何なのか」を知らない人は、
ほとんどいないでしょう。不自然です。
そのもの自体は知っていて、名称について日本語で知りたいのであれば、
B①の表現がふさわしいはずです。

では、A①が使われれる状況を考えてみましょう。
例えば、話し手の母文化になく、初めて見るもので、
それについて日本人に聞く場合などです。
その他、特殊な分野のもの、知らない分野のもの、
奇抜な芸術作品を見たときなども使いそうです。

下の絵は、インドネシア生まれで
日本の幼稚園に通う5歳の子がiPadで描いてくれた絵です。
これはA①に相当する表現で聞くと思います。
「これは、なあに?」
何だと思いますか?(答えは記事の最後に)

▼ B①「これは日本語で何て言うんですか?」

身近なもので母語では知っているけど、
日本語で何というか知りたいことは非常に多いはずです。
手に持ったり、指を指したりして、
日常のあらゆるものの「名称」を日本語で知りたいときに使えるので、
学習の最初から定型表現として覚えてほしいものです。
「日本語で」の部分は省略できます。

気をつけたいのは発音です。
「なんていう」の「いう」が、
日本人の自然な発音では「ゆー」になることが多いと思います。
いろんな日本語母語話者の自然な発音を聞かせるといいでしょう。
ちなみに、ペルー人は、ヤ行子音がジャ行子音になりやすいです。

▼ A②「…って何ですか?」

学習者が日本語母語話者の話を聞いていると、
知らない単語はたくさん出てくると思います。
そんなときに使えるのがA②です。

また、聞いたとき以外にも、
看板などを読んで意味がわからないときにも使えます。
また、前に見聞きして覚えているものでもいいです。

引用するときに「…とは」という言い方もありますが、
少々フォーマルすぎかなと思います。

▼ B②「…って日本語で何て言うんですか?」

これはかなり特殊な条件下でしか使えません。
まず「…」に入る語が日本語ではない語であって、
話の相手もその言語を知っている場合などです。
次の例を見てみましょう。

カルロス:「やまださん、maçã って日本語で何て言うんですか?」
やまだ :「「りんご」って言います。」

ブラジル人のカルロスさんは、
日本人のやまださんがポルトガル語を少し知っていることをわかっているので、
ポルトガル語の maçã の日本語での言い方を聞いています。
でも、もし、このやまださんが日系人のポルトガル語母語話者であれば、
そもそも日本語で聞くことはないかもしれません。

■ 頻度について

環境によるので一概には言えませんが、
最も頻度が高いのはB①でしょう。
2番目はA②かなと思います。

A①は、使い方に注意で、
異文化に積極的に触れようとするタイプの人や、
特殊な分野に携わる人は、多いかもしれません。
B②は、周りに自分の母語を知っている日本人が
周りにいるならば、多いかもしれません。

■ 聞いたときの答え方

B列は単語で答えてもらうものですが、
A列はどんなものなのかを聞く表現なので、
名称も含めて、2語以上になることが多いと思います。
初級の学習者が聞く場合は、
やさしい日本語で言ってもらう必要があります。

■ ①の段は、こ・そ・あの区別が必要

物を指差して言うときに、
自分の近くか、相手の近くか、それ以外の遠くで、
これ/それ/あれを区別する必要があります。

でも、何だかわからない物を聞くA①では
相手側にあることが多く、「それは」を使うことが多い気がします。

■ Bの列だけ「んです」を使う点

「んです(のだ)」は、
日本語母語話者でもうまく説明ができない文法項目です。
長くなるのでいつか別の記事で書きますが、
「んです」の有無の使い分けのいい例だなと思います。
日本語教師になる人は、ぜひ勉強してください。

■ 「これは日本語で何ですか?」

ずっと前から気になっていた表現です。
B①と同じことが言いたいのでしょうけれど、
どうも不自然な気がします。私ならB①を使います。
ネット検索でも出てくるので、使う人はいるんでしょうけど、
みなさんはどう思うでしょうか。

■ 私のポルトガル語学習での経験

私は、浜松市に来てポルトガル語を学び始めたとき、
まさにその初日に、B①に相当するフレーズを教えてもらいました。
(Como é que fala em Português?)
それ以後、辞書で引く前に母語話者に生で聞くという習慣をつけていました。

他の3つも、友達やバイト先のお客さん、日本語教室の学習者、
ブラジルで出会った人など、
たくさんのブラジル人に聞ける環境だったので、活用していました。

■ まとめ

というわけで、4つの表現は私の実体験からも
外国語学習にとても役に立つと思っています。
まずは区別をあらためて理解して、
言語学習ストラテジーの一環として、指導に組み込むといいと思います。
教室外の日常的・主体的な学習こそが、語彙を広げる鍵になります。
また、母語話者も参加する対話中心の言語教育とも相性は良いはずです。

さて、先ほどの5歳の子の絵は、獅子舞の獅子です。
噛まれたのが面白かったみたいで、
とても気に入って何度も描いていました。