たぶんかどんぐり「やさしい日本語講座(2013)」第3回(@浜松市)

横内です。
3月9日に「おしゃべりのための やさしいにほんご講座」を開催しました。
本講座は昨年9月28日の第1回12月21日の第2回についで
今回が第3回目で、本年度の文化庁事業としては最後の開催となりました。
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今回の参加者は、日本人受講者が5名、外国人参加者が6名、
どんぐりのスタッフである日本人補助者が3名、
バイリンガル補助者(フィリピン人)が1名です。
以上のメンバーを2つのテーブルに分けました。
1グループは日本人受講者2名と外国人参加者3名、それに日本人補助者が1名。
2グループは日本人受講者3名、外国人参加者3名、
日本人補助者とバイリンガル補助者が1名ずつ。
もう一人の日本人補助者は活動を充実したものにするために
必要に応じて二つのグループを行き来しました。
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今回のグループ分けは前回と少し変えて、外国人参加者をレベル別に分けず、
異なる日本語レベルの参加者が同グループに混在するように組み合わせました。
日本人参加者は、外国人に接した経験のない受講者1名と
対話型活動を何回も経験したことのある受講者1名を1グループに配置しました。
一方、2グループの日本人受講者は全員が対話型活動の経験者で、
そのうち2名は本講座への参加が2回目です。

本講座の活動は、前半の対話型活動と後半のワークショップの2部構成。
手順も前回、前々回とほぼ同じですが、
今回は活動に先立ち、前もってハンドアウトに沿って手順の説明をしました。

まず、外国人参加者とともに受講者がおしゃべり活動をします。
今回のテーマは「元気になる料理・好きな食べ物」です。
提示を担当したのはスタッフの山田さん。
「元気になる料理・食べ物はなんですか」と問いかけた後、
フィリピン料理の写真を見せ、
「これはなんですか」とフィリピン人参加者に聞きました。
フィリピン人参加者は、「ディヌグアン」という料理名を挙げ、
調理法を説明してくれます。
それが、なんと、肉を豚の血で煮る料理なんです。
この料理を知らなかった日本人受講者からは
ええっ! と声が上がって、かなり盛り上がりました。
山田さんは、次に、餃子の写真を2枚、見せます。
1枚は、材料を混ぜる前の写真で、赤いトマトが見えます。
もう1枚は、混ぜた材料を皮で包んだ後の写真。
山田さんが元気になる料理は、餃子なんですね。
「元気になる料理・好きな食べ物について話しましょう」
対話活動のスタートです。

活動中に、日本人補助者が「これは、難しい」と思った言葉や表現を
クリーム色の付箋に随時、ひらがなで書き取っていきます。
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30分ほどしたところで、対話型活動を切り上げ、
ワークショップに移ります。
まず、外国人参加者が、補助者が書いた付箋を1枚ずつチェックし、
自分にとって難しい言葉や表現が書いてあるものに
丸い小さなシールを貼っていきます。
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今回も外国人参加者の日本語レベルによって
シールの色を変えました。
日本語上級者は青、
まあまあ話せる程度の外国人参加者は黄色、
おしゃべりを成立させるのが難しい外国人参加者は赤です。
ここで、シールが貼られなかった付箋は除き、
シールの貼られた付箋のみ、検討の対象にします。

次に、日本人受講者と外国人参加者が一緒に話し合いながら、
残った付箋に書かれた日本語が
どのようにしたらわかりやすくなるか考え、
対処法を青い付箋に書いていきますが、
このとき、その対処法でわかりやすくなったか
外国人参加者に確認します。
そして、確認がとれたら、
難しい日本語を書いたクリーム色の付箋の下に、
対処法を書いた青い付箋を貼っていきます。
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対処法の検討が終わったところで、
今度はグループ毎にカテゴライズの基準を考え、
決めた基準にしたがって、付箋を分類して模造紙に貼っていきます。
今回は、2つのグループで分類基準が少し異なりました。
1グループの分類基準は6つ。
<やさしい日本語に言い換える>、<辞書を引く>、
<反対のもの出す・比較する>、<例を出す>、
<絵に描く・写真>、<使う状況を説明する>です。
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2グループの分類基準は4つで、
そのうち1グループと共通していたのが
<例を挙げる>と<置き換える>の2つ。
他の2つは<ジェスチャー>と<説明>でした。ほら、こんな具合です。
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分類ができたら、模造紙をグループ毎にホワイトボードに貼り、
各グループの代表者(日本人受講者)が順番に対処法を発表します。
発表グループは他のグループの質問に答え、意見交換します。
私は随時、質問を投げかけたり、コメントを述べたりしました。
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意見交換はとても活発に行われました。
例えば、「浮く」の対処法「プカプカ」に対して、
「オノマトペに言い換えると、却って難しくなってしまうのではないか」
などの意見が出されました。
私は各グループの発表や意見交換をふまえ、
「日本語レベルが低い外国人に対しては、
始めからやさしい日本語を使おうと意識することが大切である」
という方向性を示したり、
「やさしくない日本語」の類型として
漢語、外来語、オノマトペ、コロケーション、敬語、受身、使役などを示しました。
以上は、過去2回の本講座の活動から帰納的に導き出されたことです。
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最後に、振り返りをしました。
参加者が一人ずつ、口頭で感想や意見を述べた後、シートに記入します。
外国人参加者の振り返りシートには以下のような記述が見られました。

  • 笑顔に接することができてよかった。
  • 日本の文化についてまだまだ学ぶべきことがあることに改めて気付いた。
    もっと勉強を続けたいという気持ち。

また、日本人受講者のシートには、以下のような記述が見られました。

  • 自分ではやさしい日本語を使っているつもりだったが、
    思ったより通じていないということがわかった。(4名)
  • 「わかりやすくない日本語」を使わないようにすること、
    「わかりやすい日本語」を使うことを意識したい。
  • 外国人が日本語を勉強すると同時に、
    日本人の方でもやさしい日本語を意識して
    接する必要があることがわかった。
  • 活動中、外国人参加者の意見がとても参考になった。
  • 外国人参加者の母語ができる日本人が
    「やさしい日本語」ではなく、相手の母語で話していたが、
    それは課題だと思う。

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最後に、本講座の成果として、以下のようなことを挙げたいと思います。

  • 日本人参加者の意識を高める上で有益であったこと。
  • 外国人参加者が自分の日本語を振り返るいい機会となったこと。
  • 帰納的に「やさしくない日本語」を
    外国人参加者の日本語レベル別に抽出することができ、
    「やさしい日本語」について検討することができたこと。

一方、課題としては、以下の2点が挙げられます。

  • 時間配分の難しさ。
    (対話型活動を十分楽しみつつ、フィードバックも充実させるためには
    2時間では足りませんでした。)
  • 「やさしくない日本語」の把握が語レベルに留まることが多く、
    談話レベルでの抽出・分析が難しいこと。

さて、最後にまとめです。
母語の異なる地域の住民同士がさまざまな場面で接触し
コミュニケーションをはかろうとするとき、
共通語として用いられる「やさしい日本語」は、
互いに相手を尊重しつつ、その場その場で探り出し調整しつつ
成立させていくものです。
ですから、日本人と外国人参加者がともに集い
おしゃべりを楽しむ「どんぐり」のような対話型教室は
日本人と外国人の参加者双方が協力し合って
「やさしい日本語」について考える場としても有益に機能するはずです。
そう考えて企画した講座ですが、
おかげさまで、これまでの3回の実践を通じ、
十分な手ごたえを得ることができました。
これまでの経験を生かしつつ、よりよい活動を目指して
これからもこうした取り組みを続けていきたいと考えています。
参加してくださったみなさま、ご協力いただいた方々、
そして、このブログを読んでくださったみなさまに
心から感謝の気持ちをお伝えしたいと思います。
どうもありがとうございました!!
是非、また、お会いしましょう。


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